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そして、その強引な力に引き摺られるようにして一歩足を出したら、全く別方向から、これ又、知らない太い声が降って来た。
「悪い悪い。遅くなっちまった。おっ? こいつ等、お前の知り合い?」
「え?」
「チッ」
「連れ居たのかよっ」
「あれっ?」
多分、自分を取り囲んでいた知らない男三人も日本語を語っていたと思われるが、怜には理解出来なかった。なのに、今割り込んで来た知らない青年が語っている日本語はまともに解って、怜がびっくりしたようにその青年見上げる。
今迄、唯の一度もこんな事なかったのに…、自分で聞かないと決めたらそれが誰の言葉でも、例え大好きな姉の言葉でも頭の中を唯通り過ぎて行ったのに…、なのにどうして?
怜を取り囲んでいた見るからに柄の悪そうな男三人は、後から小走りに現れた大柄な青年を嫌そうに睨み付けると、小さく捨て台詞を吐いて、土砂降りの街の中に足早に姿を消した。
それを見送り暫く経ってから、思いっ切り怒鳴られる。
無論、怒鳴ったのは、ついさっき割り込んで来た大柄な青年で、それを怜は、キョトッと目を見張り聞いてしまった。
「このっ、バカがっ!」
「えっ?」
「え? じゃねぇ。ったく。ガキがこんなトコで何やってる。あいつ等の後をノコノコ着いてったらどういう目に合わされてたのか解ってるのかっ! ちったぁ頭働かせろっ!」
正に頭ごなしである。それが何であれ、頭ごなしに怒鳴られた事がなかったから、どう返したら良いのか解らず、怜は途方にくれて青年を見上げていた。
どうしてだか解らないが、この青年は、自分の身を心配してくれている…らしい…事は解った。語気の強さの中に、雅が時折り混ぜる”心配”と似たようなモノが感じ取れた。
でも、どうして心配してくれるのか、その理由がさっぱり解らなかった。少なくとも自分は、この青年に見覚えがないのだ。
何処で会ったろう。多分、姉関係だと思うが…。
と、言うのも、思わず振り返ってしまうくらいに大柄な青年は、その身長だけでも充分目立っているのに、逞しいのにマッチョではない理想的な肉体と、下手な俳優やモデルよりもずっと整えられた彫りが深くて凛々しい、でも甘いマスクを持っていた。
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