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 そして、(以前、何かの折りに姉に付いて行った時に教えて貰った話より)手足のバランスと腰の位置がベストだ…と思ったから、姉と同業か、近しい職種の人…の筈なのだ。  こんなに目立つ男性も珍しいとは思うが、これだけはっきりとした特徴が有るのなら、一度会えば忘れないと思うけど、さっぱり思い出せない。それが何か申し訳なくて、目の前に立ちはだかる美青年をシゲシゲ見詰め苦悩していたら、怒っていた青年がさっと身を翻した。 「じゃあな。さっさと帰れよ。雨が止むのを待ってたら、夜が明けちまうぜ」 「…。変な…人」  結局怜は、今の青年がどうして心配してくれたのか、会った事が有るのかないのか、会ったとしたならそれは何処だったのか等々、全てが解らないままに彼の背を見送り、くすり…と小さく笑ってからその場にしゃがみ込んでしまった。そして、ボンヤリと、さっきの青年が言った言葉を思い返してみる。 「何されるって…。ああ…。回されるって事か…。じゃあ、お礼…言わなきゃいけなかったんだぁ」  怜に限って言うと、特別珍しい事ではなかった。  まだ中三のお子様なのに、姉に似た目立つ外観と無口無表情が災いして実年齢よりもかなり上に見られてしまい、良くナンパされる。それは、高校生くらいのお姉さんからもっと年上の大学生とか新人OLとか、或いは、そっちの気のある酔っ払ったサラリーマンとか、酔っ払っているから女の子に見間違われてとか、この手の話には、不幸な事に事欠かなかった。  さっき、怜が逃げないように壁を作った三人組は、どう差し引いても酔っている風には見えなかったから、ちゃんと自分が男だと解って声を掛けて来た訳で、何を自分に言っていたのかは聞こうとしなかったので思い出せないが、無理矢理割り込んで来たカッコイイお兄さんにマジで怒られちゃったから、多分きっと、そういう目的で声を掛けて来たのだろう…と想像出来た。  に…しても、どうしてあのお兄さんは、僕を助けてくれたのだろう。正義感が強いのかな? それとも、哀れっぽく見えたのかな。だとしたら、ちょっと情けないかも…。  そんな事を考え、くすくすと笑い続けた。  激しさだけを増した雨音が、全ての音を覆い隠してしまう。  怜の小さな笑い声も、車の音も、何もかも…。  先を急ぐ足、足、足。次第に近くなる雷の音。
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