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どのくらいそこに居たろうか? 膝を抱えるようにしてしゃがみ込んでいる怜は、好い加減で濡れ鼠だ。でも、気にも止めず、身じろぎもせず、雨を避ける事もせずにそこに居た。くすくすと、小さく笑いだけを繰り返して…。
と、知ってそうで知らない太い声がいきなり降って来た。
「おい。ボーズ」
その声に促される形で顔を上げれば、さっき助けてくれたカッコイイお兄さんが立っていた。
「お前、まだ居たのか」
突然の声でびっくりして見上げていたのだが、さっきの事を思い出し、怜が慌てて立ち上がった。そして、お礼を言おうとしたのだが、それが言葉になる前に、歩道の方からいくつもの声が重なって届いた。
「何してんだよ」
「又、濡れるわよ? ホ~ラ」
「おっ? あ、悪い」
「知り合いの子?」
「ちょっと前に知り合った」
「はぁ?」
「何よ、そのちょっと前って」
「さっき、ちょっと魔がさして、正義の味方ぶったんだよ」
「正義の味方だぁ~?!」
「止めてちゃぶだいっ。妙に嵌まるから笑えちゃう」
「…それって、どーゆー意味」
「褒めてるんでしょう」
「今の、褒め言葉か?」
「気にしない気にしない」
「…良いけどな、別に。もう、慣れたから」
「それこそっ、どーゆー意味よっ!」
矢継ぎ早に掛かった声の多さに驚き、怜が身を引き加減で路上をマジマジと見遣った。
その直前迄怜の意識に入っていなかったそこに、こんもりと人だかりが出来ている。で、その人だかりは全てこの青年の知り合い関係であるらしく、改めて目の前の青年に目を向けた。
綺麗なお姉さんが彼に傘を差し掛けていて、それとは別方向から白い優しい手が伸びていて、青年の濡れた髪や服をハンカチで拭いているやっぱり綺麗なお姉さんが居た。
自分がここにどのくらいの時間居たのか、はっきり言って自覚はないが、この青年とは初対面で、沢山の友達が居る事は解った。
異性も同性も関係なく、見ず知らずの赤の他人から見ても一目で仲間だと判る。掛かる声の気安さとか、返す返事の確かさとか、何か、全部が妬ましい。
「ケホホッ。あ~っとぉ。ボクは誰かを待っているのかなぁ?」
そんな事をボンヤリと考えていたら、助けてくれた青年が白々しい咳ばらいをし、ヒョッと自分に矛先を向けて来た。
怜が、小さく首を左右に振る。
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