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特に、誰かを待っている訳ではない。唯、家に居たくなかっただけだ。今夜は、独りになりたかった。誰にも干渉されたくなくて、でも、全くの独りになるのも今夜は少し辛くって、だから、人が沢山居るけど干渉されずに済む繁華街に、今こうやって来ている。
怜に声を掛けた青年が目をパチクリさせ、胡散臭そうに凝視。
ウ リ
どう見ても売春をやっているようには見えなかったし、かなり差し引い
シツ
ても普通よりも上等な生
ケ
活と教育を受けているだろう品の良い、もっと砕けた言い方をすると世間擦れしていない、もしくは、世間知らずなお坊ちゃん風だし、だからさっき、強引に割り込んでやに下がっていた野郎連中を蹴散らしたのだが、ひょっとしたら僕、物凄い大ぼけかました? しかし、誰かを待っている訳ではないと言うし、けど、誰でも良い、とも解釈出来るしぃ…やっぱ、正義の味方って柄じゃないよなぁ~等々…。
その、余りの露骨な視線に、怜が反射的に身をのけ反らせた。
難しい顔をして、何を悩んでいるのだろう。
僕、何か変な事を言ったかな? 確かまだ、まともな会話はしていない筈なんだけど…?
「あ~っとぉ。誰も待っていなくてそこに居るってる事は、誰でも良いって事か」
「え?」
「それとも、補導されるのを待っている、とか」
ひとしきり唸った後に問われた事は、怜には意味が解らなかった。が、それに続いたモノは解る。
補導されたくてここに居るんじゃない。そんな事になったら一大事だ。雅のお母さんに迷惑を掛けるだけではなく、大切な姉の汚点になってしまう。だから違うと、大きく、そして強く首を左右に振った。
「んだば、何をしとるんかね。特に待たなくっても来てくれるのが補導員だぞ」
・・
「ってさぁ、アレの事ではあ~りませんかぁ」
「あ~ん?」
間延びしたような男の声はこの青年の友人のモノだと直ぐに判ったが、その声に促される形でそっち方面に視線を向けたら、それ以外には見えない小父さんと小母さんが近付いていた。
怜が咄嗟に身体に力を入れ、深く俯く。
補導されてしまう。どうしよう。
「君達、そこで何をしているの?」
嗚呼。姉さん、ごめん。僕はやっぱり要らないんだ。
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