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小母さんの優しげな声に身をすくませたら、大分耳慣れたら青年の、何とも気分悪そうな低い声が鼓膜を叩いた。
「何だって構わんだろーが。何者だお前等」
「そう語気を強くしないで。そこのボクが怖がっているじゃないの。少し、話を聞くだけよ」
「ふざけた事抜かしてんじゃねーよっ! 真っ赤っ赤っの赤の他人に、何を話して聞かせろってんだ!」
少し前…でもないのかも知れないけれど、さっき怒鳴られた時よりもずっと強い口調で、声を掛けて来た補導員に噛み付いたのは助けてくれた名も知らない青年で、何をどうしたいのか彼の言動で察した別の青年が口を挟んだ。
コウイチ
「もしもしぃ? 宏一君。論旨、ズレまくっていません?」
「何処がっ!」
「弟君はどうしたら良いのぉ~」
絶妙なタイミングで入った合いの手に、宏一と呼ばれた大柄な青年が、目の前に佇む怜に視線を戻した。
「すっかり忘れてた」
「もっしもぉ~し」
「ケホッ。お前だよっ! この馬鹿がっ!」
「改めて怒っています」
「だぁ~ってろっ!」
「へーい」
「たーくぅ。帰ろう。親父には一緒に謝ってやるから。お袋、心配してるぞ」
一変して優しい口調。
「あっあのっ」「意地張っても仕方ないだろう? お前が悪いんだから」
「あ…うん」
どうやら、兄弟で押し切ろうとしといる…らしい。
その事にやっと気付いた怜が、青年に促されるままにコクッと小さく頷き、改めて俯いた。
そんな怜の頭を、青年の大きな手が乱暴に撫で回す。そして、傘を差し掛けてくれていた女の子に目を向けた。
「悪い。もう少し見張っててくれ。車、取って来るからさ」
「良いわよ」
「直ぐ戻る。ここから動くなよ」
「あ、うん」
言いつつも半身になった青年が、やっと気が付きましたと、そこに突っ立つ小父さんと小母さんをマジに瞳に映した。
「あんた等、一体何様だ? こいつに何か用でもあるのか。それとも、何かしたってか。お前、この小母さんに何かしたのか」
「知ら…ない。ずっと…ここに居たから…」
レ イ
消え入りそうな少年の小さな声。
と、青年の大きな手が、今一度頭を撫でた。
「待つのは良いが、せめてアパートの前にしてくれ。バイトの終わる時間、お前だって知ってるだろう? おバカ」
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