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「済みません。ここで良いです。降ります」 「で、どーすんだ。元のトコに戻ってナンパされるのを待つってか」 「そんなの…待っていません…けど…独りになりたいし…でも…本当に独りになるのも嫌だから」  怜は、チラチラと青年に視線を投げながら、口の中でボソボソと返している。と、言うのも、今一つ説得力に欠ける台詞だと、不幸にも自分で思ってしまったからで、だから、運転席に居る彼の反応が少し怖かった。  誓って、ナンパされたくて足を運んだ訳ではないが、今こうして見ず知らずの男の車に乗っている訳だから、現状では強く否定出来ない…と思ったのだ。  そんな怜の、きっぱり、挙動不振な態度を黙って眺めていた青年が、いきなり大きな声で吠えた。 「だぁ~もぉっ」  その声の大きさに怜がピクリと身体を震わせたが、そんなモンは綺麗さっぱり無視して、あてもなく走らせていた車を、自分の住まいするマンションへと向かわせた。このまま走らせておくと、ボーヤが風邪を引くと思ったのだ。  袖擦り合うも何とやら。やり慣れない正義の味方やったからこう言う事態になった。て事は、自分にも責任の一端はある訳で、その責任分くらいは払わないと、男としての沽券に関わる。  と言うような運転手サイドの理由により、怜は来た事もないマンションの地下駐車場に運ばれていた。  所謂”億ション”と呼ばれるモノだと思うが、丸で関係がない所なので、思いっ切り辺りを見回してしまった。  胸を張って、車には詳しくないが、有名な高級外車くらいは、取り合えず知っている。多分、車大好きの雅をここに連れて来たら、彼は泣いて大喜びするだろう。何故なら、広い広い駐車場にこれ見よがしにズラーッと並んでいるのは、車音痴の自分でも知っているような超有名でお高い外車ばかりなのだ。 「? 何やってる。家に帰りたくないんだろうが。早く来い」 「えっ? あっ、はい」  ドアを開けて降りるのを待っていたらいきなり固まったので、一声掛けてみた。すると、何とも間抜けた表情を向けてくれて、出来の悪いゼンマイ仕掛けの玩具のようなぎこちない動きでやっと車から降りてくれた。が、視線は相変わらず辺りを漂っていて、思わず真似して辺りを伺う。  何か、目新しいモンでもあるか?
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