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危険物、でも在ればちょっと面白い事になると思うが、このマンションのセキュリティを考えるとかなり無理がある。何より、そんな感じではない。見るからに怪しい物が在るのなら、言葉なり態度なりで示しているだろう。そのくらいの気転は利くと思う、この子は…。
そう思って辺りを一周…したのだが、そこには何等代わり映えのしない、いつも見ている光景が広がっていた。目新しい車も見当たらない。一体、何が珍しいんだか…?
眉を寄せて首を捻る。と、少年のひっくり返った声がした。そのタイミングが又お上手で、ギョッとして少年を注目。
「これ、フェラーリだぁ」
「あの・・・なぁ」
「えっ? 違いましたっけ。ごめんなさい。僕、車、余り詳しくないから」
「いや。良い」
「え…?」
「フェラーリで合ってる。正しい」
何事だぁ~! と思ったら、何とも呑気な言葉を突き付けられて、思いっ切り脱力してしまった。
自分、ついさっき迄乗ってたんだろうに…。ま、乗り込む直前の状況が状況だったし夜でもあったので、その時は気付けなかったと、百歩譲って良心的に解釈してやるが、かれこれ四十分強、この車でドライブしていたんじゃないか。御本人いわく、車には詳しくないそうだが、”俺様がフェラーリだ!”と、そこかしこで主張しまくってい
ヤツ
る車なんだから、そんな中に四十分も居たなら普通見付けるだろう、かの有名な赤い跳ね馬を…。
脱力ついでにガックリとうなだれてしまったが、細い身体を更に小さくして、ずっと俯いていた少年には無理な相談だったかなとも思い、以上を言葉にする事はなかった。何かの縁で拾ってしまった少年の表情で、彼が全身の防御を解き大真面目に驚いて思わず声に代え、更に、ここに駐車し
クルマ
てある外車が珍しくて辺りを見回していたらしい…とも解ってしまったから、言うだけ不毛だと思ったのだ。
何か、とんでもなく面白いモノを見付けたのかも知れない。
ともあれ、最上階の自分の部屋へと少年を招き入れた。
間取りは、メゾネットタイプの大型の4LDK。だから、このもう一つ上の階迄彼の部屋で、専用のテラスも広い。
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