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 それから仕事の話。  宏一が職を辞したと同じ日にカワムラを退職して一緒にコーンズに行く重役は五人。勿論、宏一の大親友、隆史もメンツに入っている。そして、庄司物産と野口商会は、九月一日からコーンズの傘下に入る予定。外資系の企業になる訳だが、社員にとっては急な話なので、庄司物産は社長のポチが、野口商会は前社長の隆史が、業務整理と社員整理を行っている。 「カワムラをどうする気だい?」 「潰す」 「後悔しないか?」 「しない。お袋との大切な思い出の詰まっていたカワムラによそ者を入れ、好き勝手に人事異動させて、カワムラの土台を揺るがしたのは親父だ。と、同時に、レイを廃人同前にしたのも親父だ。たった一言、レイに心から謝ってくれたなら許したが、もう、遅い。本人も、謝る気はないと言ったそうだし。レイを二重に苦しめた代償だ」 「ん。解った。お前とレイの二人は、正式に養子として貰い受けよう」 「はい」 「レイは、ニューヨーク州立大学に編入させような」 「はい、パパ。ごめんな、急な話で」 「家は、いつでもお前を受け入れる体制は整えていたよ」 「有り難う」 「サムソンズとの経営統合も行っているから」 「えっ! どうして?」 「お前には、コーンズは小さい」 「小さいって、全米No.1じゃないか。つまり、世界一。それが小さい訳ないよ」 「いいや。お前の舞台は世界経済界だ。それに、これは、お前がまだ日本で大学生をしていた頃に出た話だから、急な事ではないんだ」 「パパ」  サムソンズグループは、宏一が英国に留学していた頃にホームステイしていたリープ・ウッド氏がオーナー社長をしている企業の事だ。ホテル経営を主にしている、世界のホテル王。その二つが経営統合しようとしているなんて………。 「お前のイギリスのパパ、リープも、二~三日中にモナコに来る事になっているから、詳しい話はその時だ」 「パパ。俺には無理だよ、そんなの」 「いいや。お前にしか出来ない事だ。本当は、これにカワムラも加わる予定だったのだがね」 「ぇっ!?」 「ま、詳しい事は、リープが来てからだ。そら、ヒロ。サンルームに戻るぞ」 「パパ!」 「何だい?」 「本気で俺にやれると思うのか?」 「ああ。これは、リープもヤスアキも同じ意見だった」 「親父も?」
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