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「…弟…かぁ」  姉のあんな嬉しそうな顔、両親が他界して初めて見た。姉の婚約者は気に入らないが、姉があの二重人格のエリート意識剥き出しの男を気に入っているのなら、口出し出来ない。        ショウジレイ  少年の名前は庄司怜。只今中学三年の受験生。  身長は平均よりやや高く、でも、体重が平均以下だから、背だけがヒョロヒョロッと高い、吹けば簡単に飛びそうな綺麗系の、線が細くて華奢な女顔の優男だった。が、しかし、それはあくまでも見た目だけの第一印象に過ぎず、外見に関しては、彼自身に責任はない。一握りしか居ないと言うスーパーモデルを生業としている、スラリとして背の高い美人の姉に、体型も顔の造形も、ついでに体質、好きな物をお腹一杯食べても太れない、もしくは、太らない体質迄似ていたので、いくらスポーツに打ち込んでも逞しくはなれないのだ。  好きな物をお腹一杯食べても太れないのは母から、背が高くてスリムな体型は父から譲り受けたモノだと思われるが、これが、男子である怜にとって良い事なのか悪い事なのか、成長途上中である今の彼にはまだ解らないが、少なくとも、同じ体質を受け継いだ姉にとっては幸運な事だったと考えられる。  そもそもの切っ掛けは、商社社長だった父の知り合いの写真家にかなり強引に口説かれて、本人にとってはちょっぴりの好奇心と、お気軽簡単なお小遣稼ぎ・に過ぎなかった一回限りのアルバイトで、まさかそれが生活の糧となろうとは、当時の彼女には考えも及ばない事だったろう。無論、訪ねて来る度に姉を撮りたいと父に迫っていた写真家も、好奇心をくすぐられたらしい姉に優しい笑みをそえて 『勉強のさせて貰っておいで』と言った父も、それに頷いて 『迷惑掛けないように』と続けた母だって、今の生活は想像していなかったと思う。何故ならその時は、父と母が居なくなるなんて、我が子二人を残して先立たなくてはならないなんて、考えも付かない程平穏で幸せな時だったから…。
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