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 事態が把握出来ず、キョトッとしている幼い弟に、”両親の死”をどう説明したら良いのか解らず、明日からの生活を考えたら急に不安になって、その場で泣き崩れてしまった。  そんな自分を、弟の小さな手が慰めてくれた。 『お姉ちゃん痛い? 何処痛いの? おまじないするよ?』  知らない大人の人達が一杯で、少し前迄小さな身体を擦り寄せて怯えていたのに、おぼつかぬ手付きで頭を撫でていた弟。  心配そうに顔を覗き込んで来た弟は、両親の死はやっぱり理解出来ていなかったが、自分が泣き咽んでいたせいで、今にも泣きそうに目を潤ませていた。  そんな弟が愛しくて、両親が生きる張り合いとして残してくれた弟をちゃんと育てないとと、やっと現実を受け止める事が出来た。そうしたら、弟の小さな身体をきつく抱きしめていた。  そう。私は全てを失った訳ではない。私にはま  コノコ だ弟が居る。そう思ったら急に勇気が沸いて来て、思いの外あっさりと、退学届けを提出出来た。  奨学金の話とか大学進学に付いても色々と教えて貰ったし、あれこれと親身になって心配してくれた先生方には感謝しているが、今はこの子を育てるのが先決だ。だから、全てを丁寧にお断りし、働き始めた。それが、十七歳の初夏だった。  騙し取られた父の会社は戻って来なかったけれど、諸々の手続きを終わらせるのに少し時間が掛かったが、それが丁度良いインターバルになったのだと思う。  この間彼女は、日本を代表するスーパーモデルとして、表の顔では美しい笑顔を作り、素に戻れる裏の顔で何度も泣いた。  それを怜は、見て知っている。  姉は大学で日本文学を学び、日本語の持つ美しさを子供達に伝えると言う夢を持っていたが、両親の突然の他界と共に夢を追い掛ける事が出来なくなり、だから怜は、姉の分も勉強した。  結婚を求められ、それを諦めた事も知っている。  姉の涙する姿を見付ける度、怜は一つ、又一つと、要らない自分を捨てて行った。そうしたら、どんなに泣きたくても泣かない、どんなに辛くても苦しくても表情に出さない、姉、或いは先生の望む通りの答えの出せる、今のような自分になっていた。
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