第一章 春

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警備員の朝は早い。まだ陽が昇る気配が全くない午前2時に目が覚める。そう無駄に早いのだ。清(きよし)は数年前に奥さんに逃げられて以来二匹の犬と暮らしている。 「チビ、コロ」 二匹の犬が小屋から顔を出した。明らかにチビの方が大きい。一年前にチビがコロの大きさを上回った際に名前をクロに替えたがコロとクロを間違えたりクロをチビと呼び間違える始末で結局はチビに戻ったのだ。 「そら行くぞ」 朝早すぎるが為に不機嫌な二匹を清は散歩に連れ出した。丁字路でコロが右、チビが左に行こうと引っ張ると清の両腕がちぎれんばかりに伸びる。 「組体操の扇か~」 甲高い声が暗い山の中で響きわたった。
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