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四
「楽しい?」
気がとんで居た俺の耳にいきなり声が聞こえたので驚いた。
「全然楽しそうに見えない」
俺は直ぐに「そんな事ないよ」っと言おうとしたけど、声が出なかった。
おそらく俺もそう思って居たからだ。
「私達合わないのかもね」
それとなく出された別れ話を俺は静かに聞く事しか出来なかった。
「別れよう。貴方が楽しくないと私も楽しくないよ」
言葉を選んで話して居るのが分かった。
俺は何も言えなくて、歩いて行く彼女を見送った。
俺は駅に向かって歩き出す。
すると…ブーンブーン。
携帯が鳴り出す。
画面には彼女の名前。
ピッ
[いろんな事が平凡だった私に甘い思い出を沢山ありがとう 私は貴方が大好きでした]
涙が出た。
どんなに辛くても必ず彼女のそばに居るって約束した自分が腹立たしかった。
彼女との思い出一つ一つが俺の頭に次々に思い浮かぶ。
歩きながら俺は返信メールを打った。
[俺も]
今の俺にはこんな言葉しか出てこなかった。
彼女の為に面白い事も嬉しい事も言ってきた。
なのに今はこんな素っ気ない言葉しか思いつかなかった。
彼女の為と思い過ぎて疲れんだろう。
次第に雪は何センチにもなり、歩く度に雪と靴がすれる音がした。
誰も居ない道に俺の泣き声と歩く音だけが響いた。
駅に着きホームで佇んでいると電車が入ってくる。
「これ最終ですよ」
駅員さんの親切な言葉に返事をする事無く、俺は電車に乗った。
車内に人は殆ど居なくてシーンとしていた。
俺は一番前に座る。
今彼女は何してるだろう。
「寂しいよ」
ボソッと呟いた俺の声は響く事はなかった。
きっと誰にも聞こえて無いだろう。
そんな事を考えながら、メールの言葉を思い出した。
[私は貴方が大好きでした]
彼女の心は確かにここにあった。
俺のもとに。
ただ永遠に一緒に居る事は本当に奇跡みたいな事なんだと思い知らされた。
人をずっと好きで居るには、ある一定の愛情を変わる事なくずっと注いで行かなきゃいけないんだ。
俺は一人で空回って、結果ふられてしまった。
そんなちょっと恥ずかしい思い出を残した俺の恋愛は甘酸っぱくて楽しいものだった。
俺は彼女が好きだった。
この想いに間違いは無い。
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