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「はッ!」
八神信也は手にした白鞘の刀を振るうと、目の前にいる活死体と化した刀剣商の肩口へ斬り下ろした。
ごっ、と鈍い音がして刃が男の鎖骨の辺りで止まる。
剣道などとは無縁の信也には、肉は断てども骨を両断する事は出来なかった。
「くそっ!このッ!」
腐り掛けた肉に食い込んだ刃を抜くと、信也は再び刀を振りかぶる。
「信也ぁ!後ろッ!」
中谷優の甲高い悲鳴が背後から投げつけられた。
耳のすぐ後ろで不快な呻き声が聞こえる。
「あ」とも「お」とも聞き取れる、だらしない間延びした呻き声。
振り返った信也の目に、刀剣商の妻の姿が飛び込んできた。
首の付け根がごっそりと咬みちぎられており、僅かに白い物が顔を覗かせていた。
信也は刀の柄で自分に掴み掛かろうとする手を振り払った。
その隙を突き、店主が後ろから襲いかかる。
咬まれたらおしまいだ。
信也は刀を逆手に握ると店主の鳩尾を狙って突き出した。
柔らかい肉に硬い金属が埋まっていく感触。
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