懐かしい港町

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「アレは今から十六年前の話だ… 当時の俺は、しがないサーカス団の一員でな…芸名は『全身刃物のジン』 で、来る日も来る日も…物珍しさに来るお客の為に必死に芸をして生計を立ててたんだよ 全く、本当大変だったぜ 一体、いつ頃からサーカス団に居たのかは解らなかったが…『お前は生まれてから三年間、このサーカス団で過ごしてたんだ』って団長に言われた 勿論、両親の面も知らない だが、サーカス団の皆はそんな俺を心から温かく見守ってくれてな…充分、幸せだったんだよ俺は だけどよ…そんな幸せは長くは続かなくてな 俺が六歳の時に団長が流行り病で亡くなったのをきっかけに団員全員がバラバラになってサーカス団は解散 そこから俺は一人だけで生きてくしか無かったんだよ 仲間は皆、明日の我が身の為って理由で俺を助けてくれなくてさ… で、流れ流れて気が付いたらこの港町に流れ着いてたんだよ その後、色々頑張って現在に至るわけだが」 「お前も大変だったんだな… で、肝心の『アイツ』は?」 「あぁ…アイツに会ったのは町に流れ着いてしばらくの間、俺は裏路地で生活してたんだよ まあ、当時の俺は今と比べ物にならない位荒んでてな 来る日も来る日も生きるために色々やったな…恐喝やら喧嘩やらやって体中がボロボロになってたっけな まあ、そんなある日の事だった いつものように路地裏の片隅で喧嘩しててよ 理由は覚えてない 只、相手が気に喰わなかったってだけで喧嘩してさ…四対一で俺が負けて、左腕と肋骨…右足を折っちまう重傷を負って、そこから一歩も動けなくなって丸々三日過ごしてたら…」
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