彼女が出来ない理由

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湯気が立ち込める風呂場に鈴は一人、浴槽に浸かっている。でも、その表情は何処か沈んでいた。 「はぁ~…何よ。デレデレしちゃってさ……」 口を湯につけブクブクと泡を出す。 (そもそも、あたしがこんなにイライラしてるのもおかしいんだけど……大体、別にお兄ちゃんのこと何かどうとも……) 少ししてから浴槽を上がり、頭を洗おうとシャンプーのホンプを押そうとしたその時、目の前にあった鏡に映る少女と目が合った。 整った顔立ちと背中まで伸びた髪、少し日焼けした肌が健康的な少女だ。 だが、その少女をじっと見つめ、放った鈴の言葉は… 「……可愛くない…」 シャンプーのポンプを押して、出てきた液体を手によく馴染ませてから頭を優しく、丁寧に、髪に馴染ませるように洗っていく。 「……こんなつり目の女の子、誰が可愛いってのよ」 自分でも分かっていた。毎日どこにいても突慳貪で、怒った雰囲気を周りに撒き散らして、可愛い所なんて何一つない。 ……でも、そんな自分を、兄は『可愛い』と言ってくれた。 一通り洗い終わり、お湯で流し、また鏡の少女と向き合う。相変わらずのつり目で不機嫌そうな顔の少女。 「……もう少し…もう少し、素直になったら……また、可愛いって、言ってくれるかな?」 鏡の少女に聞いてみる。だが、返事が返ってくることはなかった。 自分のやっていることが急におかしくなって、鈴は吹き出した。 「なぁんて、バカみたい……ほんと……バカ…」
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