袖絞りつつ

2/8
前へ
/43ページ
次へ
安倍晴明邸の濡れ縁には、主人である晴明の他に何者もいなかった 普段なら式の一つや二つ、当たり前のように居るのだが、今日は晴明一人 ぼんやりと庭を眺めている 「博雅……」 自然と口から、自らが心待ちにしている人の名前が零れる 自分でも驚いたのか、ハッとして口元を押さえ、一瞬酷く寂しげな顔をし、またフッと元の表情に戻った 「……はぁ」 そして今度は晴明にしては大きなため息 実はここ10日ほど、博雅は晴明の屋敷へ顔を出していなかった 最近はほぼ毎日、空いても二日くらいで必ず博雅は晴明の屋敷を訪れていた それなのに…… 博雅の事を考えれば考えるほど、晴明の心は酷く乱れてゆくのだった ・
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加