小さな終わり

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「おい、お前」長身の少年が真治に対して言ってくる。  ゆっくりと顔を上げた真治は無表情な顔をしており、至って冷静な様を装っていた。だが、鼓動は凄まじい勢いで乱れていた。  真治は強気な発言をしたかったが、口を通り抜けた時には言葉は自然と敬語に変換されていた。「はい、何ですか」  真治は無表情だが自然と体が小刻みに震えている。それを見てか、長身の少年は小さく「ちっ」と舌を鳴らした。「お前さ、いくら清花が緩いからって、何でいつまでもここにいるの? 清花があまりに綺麗だからって、狙ってるのか?」 「ちょっと、隼人(はやと)!」清花は急いで隼人という長身の少年に注意する。だが清花のか細い声の所為か元々の温厚な性格の所為かあまり迫力を感じられない。 「いえ」真治は申し訳なさそうに小声でそれだけしか言えなかった。 「まあ、違うなら違うで良いんだけどさ。邪魔だから退いてくれよ」隼人はつり目を更に細めながら真治のことを指差した。右手の人差し指にはめられたシルバーリングが光る。「そこさ、俺の席」  真治は下を向いたまま座席から立ち上がる。立って並んでみると隼人の長身に改めて驚かされた。  席から退くとすぐに隼人が空席に座った。もう真治の顔など見てはいない。  清花はまごまごしながら隼人の顔を見る。隼人は「文句あるのかよ」と言いたげに目を細めて口元にしわを作った。  清花がうつむき気味に真治に眼差しを向ける。「すみません。私の――」 「真治!」  清花の声を遮るように真治の背後から甲高い声が聞こえてきた。声の主は法子だった。なかなか帰ってこない真治を探しに来たのだろう。 「真治、何やってるの!」 「いや、ちょっと気晴ら――」 「良いから、来なさい!」  法子の怒鳴り声は普段から聞き慣れているのに真治はいつも体が震えるように反応してしまう。
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