小さな終わり

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 元の席に戻るまでの間、真治は車内の乗客達を観察していた。真治と同年代の若者などいない。若者と言えるのは親に連れられた幼稚園児くらいの子供だけだった。これから行く美海部村がどれだけの田舎なのかを物語っているのだろう。  覚悟だとかいうものがあればこの苦痛に耐えられるのかも知れない。しかし、そんなものは自分にはない。僅か一夜の間に襲ってきた強制参加の出来事。悩み考える時間すら与えられなかった。  ならば、せめて楽しいことを見つけよう。恋などすれば信じられない程に田舎生活が充実したものになるかも知れない。そう思っていた真治だが、世の中はそんなに都合よくは回っていないと思い知らされた。 「よお、どうしたんだ?」先程まであんなに別人のように黙り込んでいた道夫が元の快活な声で言ってきた。 「真治が後ろの車両で遊んでて、見知らぬカップルに迷惑掛けてたのよ」そう言うと法子はまた真治を睨みつける。 「へえ。真治、お前がか?」  真治は返事をしない。道夫からの問いには徹底的に答えないつもりでいた。 「ちぇ、やっぱり俺には返事なしかよ」 「そう言えば、珍しいのよ。そのカップル、かなり若かったわ。大学生と高校生くらいかしら。二人ともモデルみたいだったのよ」  まるで井戸端会議でもしているかのように法子はスキャンダルな話題を持ち掛けた。 「こんな田舎に、そんな若いカップルが来るとは。随分と老けた若者カップルだな」道夫がげらげらと哄笑する。  真治は日本茶の入ったペットボトルを口に含み、ずっと窓の外を見ていることで会話に参加しない意思を暗示する。
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