妖精

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 しばらく先頭を早足で歩き続けた真治だが、疲れてきた所為で足取りが段々と遅くなってきていた。  遥か遠くまで真っ直ぐに続くアスファルト。陽炎が立ち、その境界線が歪んでいて分からない。  直線に並ぶ電柱、青々と稲を実らせた田んぼ、深緑の山々、雲一つ無い青空。大自然ばかりが視界に入る。快晴の所為か風の音すらせず、相変わらず辺りは虫の鳴き声ばかりが響き渡っている。まるで人気が感じられない。  真治は今頃になって右肩に下げたボストンバッグを重く感じ始める。ボストンバッグその物はそれ程重くはないが、重さで肩にぐいぐいと食い込んでくる。  真夏の陽射しと、終わりの見えない焦燥感と、右肩の痛みに耐えられなくなり、真治はアスファルトに座り込む。  座り込んだは良いが、日差しによって温められたアスファルトの熱さに耐えられなくなり、真治はすぐに飛び上がるように立ち上がった。  その時、ぼろぼろの赤いバスがゆっくりと真治たちの横を通り抜けていった。 「おい、次のバスじゃんか! 一日に四往復しか来ないんじゃなかったのかよ!」道夫達に向かって大声を出す。 「いやあ、まさかこんな早く次のがあるとはなあ」道夫はそう言って、わざとらしく首を傾げてみせた。 「やってらんねぇ」そう言って真治はしゃがみ込む。  白いTシャツが体にベッタリと張り付く。真治はTシャツを引っ張り、上下させて風を起こそうとするが全然涼しくはならず、余計に汗が噴き出してくる。 「おいおい、俺はボストンバッグ二つ持ってるけど、平気だぞ? 男ならもうちょい根性出せよ」  道夫が嘆くように言ってきたが、真治は決して返事を返さなかった。そんな真治を見て、法子は小さな溜め息を吐く。  法子はボストンバッグから大きめのスポーツタオルを取り出し、真治に手渡す。  真治はタオルで額とこめかみの汗を拭った。いくら拭いても汗は収まらない。諦めたようにスポーツタオルを首に掛け、ボストンバッグを持って立ち上がる。  先に歩く道夫と法子を無言で追い抜き、再び先頭を歩き始める。そんな真治の姿を見た道夫と法子は、顔を合わせて笑った。
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