小さな終わり

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「あの、美海部の人ですか?」滞在を長引かせたいが為に自然と真治の口から漏れた言葉だった。 「美海部は四年ぶりなんです。懐かしいなぁ……」女性はまた窓の外の広大な田園を眺めながら誰に言ったかも知れない言い方をした。おそらく、四年ぶりに帰る美海部の思い出をゆっくりと振り返っているのだろう。  そうなると、黒髪の女性の目の前にただ座っている真治は居心地の悪いものだった。やはり戻ろうかと思う。 「あ、すみません」黒髪の女性がまた真治に謝る。その際にまた黒髪が揺れ、レモンの微香が鼻を刺激した。真治は居心地の悪さを忘れ、またここに滞在しようと決意する。  その時、真治の背後から男の声が聞こえてきた。「おい、清花(さやか)」  後ろへ振り返ると身長が百八十センチはある長身の少年が不機嫌そうな顔で立っていた。真治と大体同い年くらいのようだ。しかし、少年はモデルのような体型と顔をしている。  ドクロがプリントされた黒いシャツに、じゃらじゃらとした重そうなペンダント。ブラウンに染めた髪をワックスで立たせており、険悪な目つきをしている。  ひとつひとつのパーツに注目してみれば、夜の都会を徘徊していそうな若者だった。しかし、全体で見てみると何故か美形な少年に感じてしまう。とても不思議な格好良さだ。 「おい、清花。このチビ誰?」長身の少年はそう言いながら座席にきょとんと座る真治を見下ろした。  真治は同い年くらいの少年にチビと言われたことが気に食わなかった。長身の少年を真下から見上げる形となっている真治にはそれが余計に嫌悪感を生む行為となっていた。  清花と呼ばれた黒髪の女性は長身の少年と真治の事を同時に見ながら困ったようにあたふたしている。「えっと……名前はまだ知らないんだけどね」 「はあ? 何それ?」長身の少年が眉間にしわを寄せながら言う。その際にまた真治の方へ視線を下げた。真治は目を合わせないようにうつむく。 「美海部の風景を嫌々そうに見てたから……。つい、ね」清花は自分よりも明らかに年下の少年に向かって気を使っているようだった。真治に対しての態度を考慮すれば、元からそんな性格なのかも知れない。  寧ろ、年上の清花に向かってため口を利く少年に問題があるのではないか。真治はうつむいたまま密かに頬を膨らませた。
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