日常

6/6
前へ
/12ページ
次へ
「みやこ」 「何」  あまりに恐すぎて画面から意識が離せないないようで、声だけは俺に向けられたが、感情なんて入れられたものじゃない。 「なんでもねぇ」  人間というのは根本ではひどく欲望に忠実で、今の俺は欲望に踊らされている。今すぐに抱き締めたいだとか、その唇に触れたいだとか、色々な感情が駆け巡る。映画なんてもう知ったことじゃない、そっちはそっちで勝手にやればいい。  俺はいま欲望の抑制に必死なんだから。 「わっ」  女優の驚愕にあわせて都が跳ねた。  いっそこのまま忠実になればラクなのだろうが、それではいけないから理性があるのだろう。だから俺は最後まで我慢しよう。  何より、俺は恐かった。俺が欲望にしたがったときに、都の顔が恐怖に歪むのが。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加