地下の感情

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地下の感情

 ありえない。なんてことをしたんだ、昨日の自分。朝の眩しい光が差し込む部屋でのそのそと着替える。昨日の自分にため息をひとつ。  もしタイムマシーンがあるなら、昨日へ戻って自分を諭してやりたい。  ホラーはみたっていいけど、あんまり祐樹にくっつきすぎると明日会いづらくなるから気を付けて。そう言えたらいいのに。  都は学ランの上着に頭をうずめた。 「あーもう、どうしよ」  一人暮らしをすることになってから、どうしたのと声をかけてくれる人はいない。気楽だけれど、自分以外の声が響かないのは、なんだか寂しい。  時計が早く行けと急かしている。この時間だと朝食を作る時間はないから、今日はトーストにしよう。  充電器から携帯を取って、ドアノブに手を掛けたら携帯が震えた。  祐樹だ。 「もしもし?」 『おはよ都』  ドキドキして電話に出ると、聞こえてきたのはいつもとかわらない祐樹の声。  ほっとしたけれど、少しだけ落ち込んだ自分の気持ちに都は内心、首を傾げた。  いつもどおりでよかった。でもいつもどおりじゃなくても、よかった。 『都?』  どうした、と祐樹がきいてくる。都は慌てて声返した。 「あ、ごめん。おはよ。どうしたの?」 『今日の古典、授業変更だっただろ? 何に変わったんだっけ』 「リーディングだったと思うけど」  電話の向こうからため息が聞こえた。 「予習してねぇ…まあいいか」 「良くないよ」  都が笑う。 「学校でするから、いいんだよ」 「1限なのに?」 「ホームルームにやる。ありがとな、じゃあ駅で」 「ん、後でね」  携帯を耳から離して、ゆっくりと電源ボタンを押した。ほっ、とため息をひとつ。  都と祐樹は毎朝、一緒に登校している。乗る駅が同じなのだ。朝の電車はこんでいてあまり好きではないが、祐樹がいれば大して気にならない。  いつもと変わらない祐樹の声はまだ頭に残っている。変わっていなくて安心したけれど、いっそ変わっていて欲しかったとも思う。  都は部屋を後にした。
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