140人が本棚に入れています
本棚に追加
扉の向こう
部屋を見渡していると、さっきまでは確かに無かったはずの扉
が目に入った。
茶色に塗られた木製の扉、その扉に金色の髪をした少年が身を
乗り出すように『生えていた』。
そう、生えている。
扉に腰から下が完全に埋められ、不安定な体勢にも関わらず平
然とそこに少年生えていた。
俺は半分引きながらもその少年が生えた扉に近づく。
たとえ嫌でも他に出口は無いんだ、腹を括るしかない。
「こ、こんにちわ」
片手を挙げて少年に声を掛ける。
口から出た声がついどもってしまった。
しかし、そんな事を気にした風も無く、少年は俺を見て二、三
回パチクリと瞬きをすると笑顔を俺に向けてきた。
「こんにちわ、久しぶりだなぁ、この扉を通る人が居るなんて!
」
嬉しそうにパタパタと手を動かし、子供らしい独特の笑みを浮
かべている。
いや、俺も子供なんだけどさ。
見た目は俺とほとんど同じくらいなのに俺より幼く感じさせる
のは高く中性的な声と仕草のためだろう。
「ねぇ、ねぇ、此処を通りたいんだよね? ね?」
期待を込めたような瞳で俺を見ながら何度も聞いてくる。
確かに、俺は此処を通りたい。
他に出口は無いし、元来た道も無い。
それならば此処を通るしかないだろう。
そう考え、俺は少年の質問に頷いた。
すると、パァッという効果音が合うような満面の笑顔を浮かべ
、喜びからか弾んだ声で喋りだした。
最初のコメントを投稿しよう!