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猫の耳を生やした革手袋の男、さっき会った、アトリスを穴に引き込んだ男。
先程までは居なかった筈の男にアトリスは驚いた様に眼を見開くが、直ぐに視線を鋭くし男を睨みつけた。
「…白兎を追えばいいってどういう事だよ。まさか、お前が原因なんじゃ…ッ」
「アリス、全ては白兎を追えば分かる事だよ」
アトリスは胸ぐらを掴む勢いで男に近付き男の目の前に立つ、机の上に座っている男を睨みつけながら口を開こうと息を吸い込む。
しかし、それを遮るように男はバタンと本を閉じた。
その音にアトリスは吸い込んだ息を詰め男を見る。
左手で本を持ち、空いている右手で目の前に立つアトリスの頬を撫でる。
その行動にアトリスは驚いた様に手を払い除けた。
パンッと小気味いい音がして払らわれた手を特に気にするでも無く男は持って居た本をアトリスに渡し、机の上に立つ。
「アリス、早くしないと白兎はどんどん離れてしまうよ」
男はそう言うと足元から消え始めた。
「ちょッ、待てよ! お前一体誰なんだッ」
アトリスは声を張り上げ、殆んど消えている男に手を伸ばし引き止めようとした。
そのアトリスの行動に薄笑いではなく、深く笑みを浮かべ男は答えた。
「僕はチェシャ猫。何時でも君を見守ってるよ、アリス」
その言葉だけを残しチェシャ猫と名乗った男は完全に掻き消えた。
取り残されたアトリスはチェシャ猫に向けて伸ばしていた手をギュッと握り締め、近くに有った椅子に勢いよく腰を降ろし、渡された青い本を机に置くと不機嫌そうに顔をしかめ大きく溜め息をつく。
「ったく、なんなんだよアイツ…」
そう、不満を漏らしながら不意に渡さ青い本に目が止まった。
「…そういや、なんの本だ? これ…」
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