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パラリと紙の擦れる音が静かな室内に響く。
チェシャ猫がアトリスに渡したのは何度も読まれたのか所々潰れた、古い絵本だった。
アトリスはパラパラと興味深そうにに頁を捲り眼を通す。
アリスと呼ばれる青いドレスの少女。
チェシャ猫と呼ばれる不思議な猫。
遅刻だと急ぐ白兎。
のんびりとお茶会を楽しむ帽子屋。
お茶会で眠り続ける眠りネズミ。
一人浮かれている三月兎。
色以外に違いが少ない双子の兄弟。
自分勝手な紅い女王。
頁を捲るにつれてアトリスは不思議な話の中に引きづり込まれていた。
そして、アトリスの指が最後の一頁を捲る。
そこには古ぼけた写真が張られていた。
様々な不思議な格好をした人間に囲まれた青いドレスの少女を中心として撮られた笑顔の写真。
その中に、チェシャ猫の姿も在った。
今と変わらないそのままの姿で少女の隣に佇ずむ。
「思い出の、写真か? でも、なんで俺に……」
呟きながら写真の貼られた頁を閉じる。
パタンと小気味の良い音が室内に響いた。
アトリスは閉じた本を机に置くと立ち上がり背伸びをした。
一定の体勢をとっていたせいか節々がパキパキと小さくなる。
背伸びを終えるとアトリスは大きく息を吐いた。
「結局手掛りらしい手掛りはあのチェシャ猫って奴が言ってた白兎だけか」
そう呟くとアトリスは辺りを見回す、外への出口が無い部屋を抜け出すために。
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