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暑い午後の陽射しが降り注ぐ小さな丘。
緩やかな風が草木を揺らし、近くを静かに流れる小川からは夏の熱気の中、適度に冷やされた空気が小川から跳ねた滴と共に舞っていた。
そんな中、丘の上にそびえ立つ一本の木の下に、一人の少年が陽射しを避けるように寝むっていた。
少年の名はアトリス。
小川の上流にある村に住む少年だ。
アトリスは胸の上に開いたままの本を置き、木の幹に背を預け小さく寝息をたてていた。
アトリスの金色の髪を緩やかな風が撫でる。
静かな時間が流れるその瞬間、緩やかに吹く風の音の中に、微かな声が混じっていた。
「大変だ、大変だ、遅れちまうッ!!」
だんだんと近付いてくる声にアトリスは微かに身じろぎ眼を開き辺りを見回す。
そんなアトリスの眼についたのは、小さな丘と小川の間にある小道。
その小道を時計を見ながら走るスーツ姿の青年。
極めて普通なありふれた風景。
しかし、その風景はけしてありふれた風景ではなかった。
その風景を異様な物にしていたのはスーツ姿の青年。
青年の、本来は人間の耳があるであろう場所、白髪の間からは白く長い兎の耳が生えていたからだ。
「な…なんだ、アイツ?!」
アトリスはその光景に驚き、勢い良く幹から起き上がった。
その拍子に胸の上に置かれていた本がバサリと音をたてて草の上に落ちる。
アトリスは立ち上がり青年の後を追う。
走る青年をしばらく追いかけていると、青年の姿が不意に消えた。
「あ…あれ? 確か此方に来たはず…」
そう呟きながら辺りを見回し、アトリスは青年の姿を探した。
アトリスが一歩前にでる。
すると、カラン…と小さな音が地面から聞こえた。
その音にアトリスは下を向く。
其所には、大きく口を開けた穴が存在していた。
「穴?! こんな所に、穴なんて有ったか!?」
アトリスは誰に問うでもなく一人事を言う。
その場には風が吹き抜ける音のみが聞こえていた。
「まさか…、この中に落ちたのか?」
あの青年が今目の前で大きく口を開けている穴に落ちたのかと想像した瞬間、ゴクリとアトリスの喉が鳴った。
1.やっぱ、追うしかないだろ?!
↓
5P
2.怖いし…、本読み途中だし…気にしないで戻るか。
↓
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