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闇が永遠に続くのではないかというほど深い穴の中から抜け出し、辺りを光が包む。
その瞬間、ボスッという音と共に小さく純白の美しい羽根が舞い上がった。
「ってー…、何だよ今の…」
そう呟きながらアトリスは眼を擦る。
頬を挟んでいた手はいつの間にか消えていた。
瞑っていた眼を開き、辺りを見る。
アトリスの眼の写ったのは、まだ微かに舞い続けている小さな羽根。
趣味の悪い、ピンクと赤の菱形模様の壁紙に長い廊下。
アトリスが落ちた薄紅色の巨大なクッション。
そして、そんな空間の中で一際浮いている人物を見付た。
紫の髪に前髪に黒いメッシュの入った、黒コートの男。
その時点ですでに部屋の中では浮いているにも関わらず、さらに男を浮かせているのはその頭から生えた猫の耳だった。
ピクピクと動く耳と尻尾。
薄笑いを浮かべる口許。
唖然とアトリスが男を眺めていると、男が胸に革手袋をつけた手を沿え、静かに頭を下げた。
「やあ、アリス。僕達の不思議の国へようこそ」
薄笑いを浮かべたまま、男はアトリスを『アリス』と呼んだ。
「アリス…?何言ってんだ、俺はアトリス、アリスなんて名前じゃない!」
アリスと呼ばれ、アトリスは声を張り上げた。
しかし、男は怯む事なく薄笑いを浮かべる。
その事を怪訝に思いながら、不意にその男が着けている手袋にアトリスは気付き凝視した。
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