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帰り方も何も分からず、仕方なくアトリスは灯りのともった長い廊下を進んだ。
アトリスが廊下を歩くと灯りも合わせるようにともる。
そんな灯りを不思議そうに眺めながら、先程の男の事を思い出していた。
アリスは白兎を追うものだと言った、あの男は何者なのか。
なぜアトリスはアリスと呼ばれなくてはならないのか。
その事ばかりがアトリスの脳内を巡っていた。
そんな中、不意に目の前の廊下が途切れ、開けた場所に出る。
其処はピンクと白を基調とした部屋で、女の子が好むような可愛らしい家具が置かれていた。
だが、部屋には窓もドアも無く出口らしいものが何一つ無かった。
「…どういう事だ? 窓も何も無いなんて…」
アトリスはそう呟き、可愛らしい壁紙を叩いてみる。
隠し扉や通路が有るかも知れないと期待を込めて。
しかし、部屋全体の壁を調べても鈍い音がするのみで何も起こらない。
道を間違えたかと後ろを向き、先程通ってきた廊下に戻ろうとしたが、廊下は消え、其処には本棚が有った。
「なんだよ…、これ…」
さっきまで確かに有った物が消え失せた事に唖然とアトリスはその本棚に触れた。
本棚は完全に壁に密着していて揺れる事すらしない。
「どうすんだよ…、もしかして俺…帰れねぇ?」
「白兎を追えばいいんだよ、アリス」
返事を求めた訳ではなく、ただ呟いただけの言葉にアトリスは勢いよく声のした方を振り返った。
振り向いた先には、机の上に足を組んで座り、一冊の青い本を読んでいる革手袋の男が居た。
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