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『 早いね 』
――…… そっちが遅いんだろ
『 遅くないって。まだ5分前だよ? 』
――…… なんでいつも5分前なんだよ
『 丁度いいでしょ? 』
――…… 何がだよ
『 もういいじゃん。ほら、行こう 』
――…… 待てって
『 竜、ほら早く 』
『 竜 』
「起きなさい! 藤嶋竜!」
四時間目の英語。
静かだった教室に不機嫌を露わにした声と机を叩いた音が響いた。
「…………」
「いい度胸ね、あたしの授業で寝るなんて」
叩かれた机の主、そして名前を晒された主、藤嶋竜は机に突っ伏していた体勢からゆっくりと体を起こすと、声がした方向へと虚ろな視線を向けた。
少し開いた窓から冷たい風が教室へ入り、ふわりと跳ねた明るいブラウンの髪を揺らした。
「授業なんて聞かなくてもわかるってことかしら?」
「……いや、別にそういう……」
「授業が終わったら職員室に来なさい」
「…………」
竜はまだ完全に開ききってない目で女、英語教師の神崎夏子を見上げながら少し掠れた声で答えた。しかし、夏子は竜が言い切る前にそれを厳しい声で遮る。
夏子は後ろで一つに束ねた髪を揺らしながら竜に背を向けて教卓へと戻っていった。
少しざわついている教室。
竜はぼんやりと夏子の後ろ姿を眺めた後、溜め息を一つついて、あちこちに跳ねた髪をかき混ぜると椅子の背もたれにもたれて窓の外へ視線を移した。
「……最悪……」
そう呟くと竜は目を伏せて、溜め息をついた。
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