32杯目 あんふぇあ

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 大浴場の近くにある広間を後にした竜は、左手でメロンソーダの瓶とお汁粉の缶を持ちながら右手を口元に当てたまま、廊下を歩いていた。途中、廊下ですれ違った仲居が竜に小さく頭を下げていたが、それにも気付かずに真剣な表情で何かを考えていた。  階段近くに差し掛かったとき、横から声がかけられる。 「よお、ちゃっかり者の竜クン」 「…………」  加治が腕を組んで、壁に背を預けて立っていた。3人前を奢らされたことを根に持っているのか、口元が引き攣っている。しかし、考え事に夢中の竜は加治の声に全く反応せずに加治の前を通り過ぎて行く。 「ちょ、おい! 待て! シカトすんなよ!」 「……あ?」  慌てた加治が竜の左腕を無理やり掴むと、竜はそれはそれは面倒くさそうな表情を加治に向けた。加治はその表情にこめかみがピクリと動く。 「年上を敬うっつー言葉はねえのかよ、お前の辞書には」 「人による」 「ム、ムカつく……」  さも当然の事のように答えた竜に加治は壁に手をついて項垂れた。竜は心底鬱陶しそうな表情を浮かべて加治を見ている。竜は溜息をついてから、口を開いた。
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