私をリンクに連れてって!    【後編】

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“先輩 これは多分、私の 最初で最後のラブレターです。 あの日、突然現れた先輩に、 私がどれぐらい戸惑っていたか知ってますか? 思っていた人とはまったく違う、すごく気が短くて、頑固でびっくりしちゃいました。 でも、遠くから ずっと憧れていた先輩は やっぱりすごい人で、 くやしいけど、 やっぱり好きに なってしまいました。 朝目覚めると ダイニングには 先輩のつくってくれた 温かい朝食があって リンクではスパルタ指導に必死でついていって… 私が逃げ出しても、迎えにきてくれた先輩。 投げ出しそうになったら、支えてくれた先輩。 初めてオペラを観に連れていってくれたのも、先輩でした。 一緒に笑ったり、泣いたり、傷つけあうこともいっぱいあったけど、それまで知らなかったことや、感情もおぼえました。 こんなに濃くて、どんな悲しい日も素敵だった毎日を、私は一生忘れません。 最高のスケートができる先輩が好きでした。 お料理が上手な先輩が好きでした。 物知りで、面倒見がよくて、本当はとっても情に厚い先輩が好きでした。 はにかんで笑うときも、寝ぐせも、弱さも、みんな大好き。 ふざけてないで 一度くらい、ちゃんと好きって言っておけば良かった。 私の、唯一の後悔です。 モスクワには、後悔はもっていけないので、ここに置いていきます。 もう負けたくないです。 これから、精一杯スケートをがんばります。与えてもらったものを、無駄にしないように。 まだまだ迷いと不安ばかりだけど、今度は思い出が支えてくれるって、そう信じて。 さようなら。 先輩は、私のすべてでした。”
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