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――――少し遅れていた搭乗案内がロビーに響く。
バンビも手荷物をもってベンチから立ち上がったが、その時ふと、聞き覚えのある靴音が聞こえた気がして辺りを見渡した。
「まさかね…」
寂しく笑って振りかえると、保安検査のゲートから誰かが飛びこんできたのが見えた。
「…………先輩」
バンビの姿を見つけると一瞬だけ立ち止まり、それから黒いコートをひるがえし、肩で息をしながら、つかつかと早歩きで近づいていく。
そしてそのままの勢いで顔前までたどりつくと、わけがわからず棒立ちしていたバンビの後頭部を左手でわしづかみにし、引き寄せてキスをした。
思わずあらがったわずかな力も高真は意に介さなかった。
唇の熱は、凝り固まっていた気持ちを溶かしていくのか、荒っぽくついばみ絡みつかれるほど、同じくらい熱い涙がバンビの頬を伝って落ちていく。
名残惜しそうに唇の感触をなぞってから、高真はあらためてバンビを抱きしめた。
いったいどこからどれほど走ってきたのか、髪は乱れ、真冬だというのに額に汗までしている。
痛くて窮屈な抱擁は、語らずとも饒舌に気持ちを送りこんだ。
バンビはぼんやりと納得しながら、そっと、広い背中に手をまわした。
「人が……、見てますよ。」
涙がとまらないのに、嬉しさがふつふつ沸きおこる。
「……知ってる。」と、高真は頬擦りした。
「……週刊誌に載ったら、大騒ぎですよ。」
「……知ってる。」
こらえきれなかった。あっという間に堰をきられて、バンビは一層強くしがみつくと、顔をぐしゃぐしゃにして嗚咽した。
「お前、ふざけんなよ……」
まだ息をあげながら、高真は言った。
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