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「……へたくそなスケートの頃からやたら人目を惹きつけるスケートも、ジャンプの成功、ステップやスピンのレベルアップ…、叶うたびにお前がめちゃくちゃ良い顔見せるのもたまらなかった。他でもないお前のキャリアの為なら、なんだって捨ててやろうと思ってた。手放しても仕方ないって。」
「先輩……私、ほんとは自信なんかないんです。どれだけ先輩に教えてもらったスケートが体にしみついてても、頭でわかってても、……気持ちが伝わらないだけで、胸がつまって…、今でもこんなに痛い…」
「……バカで素直で直情型で図々しい。……そのくせなんでこんな時だけ聞きわけがいいんだよ…!」
「……ごめんなさい」
「ここまできて引くなよ! 迷いも不安も全部オレに預けていいから。またお前が逃げだしたくなっても、スケートが好きな気持ちがあるなら、何度でもオレが連れ戻してやるから…!」
人目もはばからず子どもみたいに泣きじゃくるバンビを抱きしめていると、安堵感からか、それまではりつめていた高真が少しだけ笑みをこぼす。
「大体、日本にだってそんなバカでかい後悔置いてかれたら困るんだ! ……ていうか、お前一体いつから…」
くしゃり。長い指で猫っ毛を撫でながら、やっと見つめあう。高真の目は充血して、男泣きをこらえているのがそれとなくわかった。
「先輩…」
「いや、いい。」
「あっ」
高真はおもむろにバンビの手から航空券を取りあげると、保安検査をパスする為だけに取った自分のチケットを重ねて破いた。
「えぇっ…?」
バンビはまっぷたつになったチケットと、高真の顔を交互に見た。
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