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入学まもない4月。
大学構内の木々も青々として、爽やかな風に吹かれているというのに、樹木のアーチの下、いかにも元気がなさそうな女子がひとり。
斜めがけのスポーツバッグが、細身の背中で異様にかさばっている。
「バンビーっ!」
近ごろ聞き慣れた声にそう呼ばれてふりかえると。“バンビ”はトレードマークのへらりとした笑顔を見せた。
「……七葉ちゃん。」
「もぉ~っ! バンビってば何回呼んでも気づかないんだもん。」
「えっ、そうだった? 全然気づかなかったよ。ごめん…」
「暗っ……! まだ凹んでるの?」と、七葉は昨日のメールのやりとりを思い出して言った。
“今年はもう、プログラムを作ってやれないかもしれないなぁ…”
大好きなコーチの呟いたその言葉のせいで、昨日は眠れない夜を過ごした。
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