獣が嗤う大晦日[高土]

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剣を交えるその一瞬だけ、俺達の運命は交わる。 ただ、その一瞬だけ。 もうじき年が明けるという時刻に、俺はこの寒空の下にいた。 吹く風の冷たさに指先を合わせて息を吹きかける。すっかり白く色をなくした手が、指先だけ赤く染まっている。 「寒ぃ」 呟いた言葉は息とともに白くにじんで消えていく。 「土方さん、奴サンの動きはどうですかィ」 「いや、まだ動かねぇよ…ったく、誰だよ、こんな日にこんなたれ込みやがったのは」 「噂の出どころはともかく、裏取れたからわざわざ出ばってきたんじゃないですかィ」 「わぁってるよ」 攘夷派の奴らが動くとのタレ込みがあったのは数日前。監察に裏を取らせたからまず間違いないだろうが…何もこんな日に動かなくともいいだろうに。 「副長!」 「山崎か」 「ホシが動きました!」 「よしっ!各隊、総員かかれ!」 「はっ!!」 駆け出していく隊士達と、なだれ込むように駆けてくる攘夷志士が混じり合って怒声と刀の交じる金属音が寒空に響く。 少し離れた所で聞こえるバズーカの音は、きっと真っ先に突っ込んでいった総悟だろう。 「トシッ、後ろだっ!!」 近藤さんの声とほぼ同時に、ビュンッと空気を切り裂く音と抑える気のまるでない殺気が襲い、ガキンッ、冷えた空気に金属音がこだまする。 「…久しぶり、だなァ?」 「高、杉…」 低く這いずるような声音、獣のような瞳、空気すら震わせるような殺気。 「クククッ、会いたかったぜぇ?」 刀を合わせたまま、息がかかりそうな距離で睨みつけながら、その声にぞくりと背筋を這い上がるのを感じた。 「今日こそおとなしくお縄につけ!」 「はっ、幕府の狗に俺が殺せたらな」 「ぶっ殺してやらァ!!」 キン、カキン、カァン、ぶつかり合う金属音、空気を斬るように離れる刀、周囲の喧騒すら膜を張った向こう側の出来事のように感じる。 「いい加減俺のモンになれよ、土方」 「ふざけんなっ」 高杉の踏み込んだ一歩に反応が遅れて左腕に一筋の熱が走る。肩を引いて刀を払うと今度は俺の刀が高杉の頬に赤い筋を入れる。      
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