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「……やっと見つけた」
夕暮れ時、真っ赤に染まった路地裏に、呟くようなそんな声が落ちる。
聞きなれたはずの声なのに、ここにはとても似つかわしくないものに思えた。それはきっと、この路地裏が俺の流す血で真っ赤に染まっていることが要因だろう。
どうして俺はこんなところで血を流しながら倒れているのだろう?
正解はCMの後だ、ちくしょうめ。
胡乱な目で声の主を見る。そこには俺のよく知る一人の女の子が立っていた。
光を弾くような艶のある黒髪。
強い意志の込められた瞳。
細く小さな手に添えられた──銀色に輝く刀。
……もう訳がわからなかった。
せめて理解できるものを探すため、もしくはこの状況を説明してくれる誰かを探すために俺は彼女から目をそらし、目だけで周りの様子を確かめた。
──ウゾウゾと、何体もの影がこちらの様子を窺っている。
気を、失いかけた。
白い仮面をつけた影としか形容のできない何かが、俺と彼女を囲んでいる。
ああ、これは夢か? 幻か? 妄想か?
すべて不正解だ。だって、切られた左腕がこんなにも痛い。こんなにも熱い。
泣きたくなるくらいリアリティのある感覚が、これは現実なのだと俺に否応無く突きつける。
もう一度彼女へと目を移す。
あー……何故だろう?
こんなにも痛々しい俺を見て、どうしてアイツは──
──あんなにいい笑顔を浮かべているんだろう
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