≡序章≡~プロローグ~

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カチリ、とジッポライターに何度も火を点そうとするが、接触が悪いのかただ単に燃料ぎれなのか火が付かない。 阿呆な補佐に眉間のしわを余計に増やされ、更には火が点かない所為で煙草も吸えない。 二つの苛立ちは相乗効果を生み出し、土方は苛つきを抑えようとするも、耐えきれない舌打ちが零れる。 「…書類増やすバカはいるわ仕事サボる阿呆はいるわ。踏んだり蹴ったりたあこの事だな」 今まで溜めに溜め込んだ愚痴やらなんやらが、土方の口をついて出る。 ここにいる副長補佐も気紛れなのかただのマイペースなのか、自分がこなさなければならない書類整理を手伝ってくれることはもちろん、本来補佐がこなさなければならない仕事すら真面目にやっている姿を見るのは稀なのだ。 「副長の非番が?誰です、そんな恐れ多いことをしでかしたのは」 「てめぇと総一郎ぐらいしかいねぇな、俺の知るサボり魔軍団は」 「え、そうだったんですか!?」 真剣そうに尋ねたかと思えば、返って来た答えに今知ったと言わんばかりの驚きの表情。 毎度のごとく天然なのか意識的になのかはっきりしないそれに、土方の苛立ちが増すのと比例して眉間の皺が増えた。 今すぐに刀を抜きたい衝動に駆られるが、どうせ避けられるのは目に見えている。 無駄な労力は使いたくない、己の為に。 「見回りいくぞ、書類整理サボった分きっちり働いてもらうからな」 「え゙、」 あからさまに嫌そうに顔をしかめて、海斗は己の上司である鬼の顔をから目を逸らす。 海斗でなくても、周囲にいた隊士達は嫌でもその理由が飲み込めてしまう。 鬼とペアで江戸の見回りをし終えた隊士が、一字一句違わずぴったり口を揃えて言うことがあるからだ。 ──"やっぱり鬼だ、あの人" 「文句言うなら仕事サボって堂々と昼寝こいてたてめぇに言うんだな。オラ、行くぞ」 今にも文句をつらつらと並べそうな海斗を背に、土方は早々に屯所の門の方へと足を伸ばす。 ここの出口は裏口と表門があるが、裏口を使うのは精々攘夷志士に襲撃をかける時に悟られないようにする時くらいである。 「…はーい」 納得いかない顔をしながらも一応上司である彼に逆らうことは余りできないため、海斗はかなり間延びした返事を返す。 助かったという多数の隊士達の視線を一身に受けながら、彼は先に玄関に向かっていった土方の後を追った。
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