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さて、数刻後。
かぶき町内での見回りをある程度終えて――途中で買い込んだ団子を頬張りながら――、海斗は土方と共に本日最後の見回り地域、屯所へ続く三番街を並んで歩いていた。
「特に異常ないですね。楽でいいですけど」
「ちぃと物足りねぇがな」
「警察が物騒な発言してどーすんすか。あ、食べます?」
「要らねえ。つーか職務中に買い食いしてんじゃねえよ」
三色団子五本も食べ終わり、更に焼きまんじゅうを差しだしてくる海斗を睨みつけて、土方は不満げに紫煙を吐きだした。
何もないのに越した事はないが、こうも何もないとつまらないものだ。
江戸を護る事が自分達警察――真選組の仕事。
不謹慎な発言だと自分でも理解しているが、生温い所に居続けると腕が鈍る。
それらを全て理解している海斗は呆れた様に溜息を吐き出し、最後の焼きまんじゅうを頬張った。
彼と巡察にでるといつもこうだ。
"こちとら彼より面倒な仕事"をしているのだから、巡察くらい楽をしたいと言うのに。
そうして、饅頭を飲み込んだ時。
「………?」
「どうした、海斗」
突如、規則正しく歩を進めていた海斗の足が止まる。
進行方向とは真逆、空を睨み付ける様に狭められた双眸。
普段の飄々とした、いつでもとぼけている様な彼の姿はない。
並んでいたはずの補佐が足を止めた事に気が付いた土方は、懐から新たな煙草を取り出しつつ何事かと振り返る。
彼の位置から海斗の顔は見えず、一体彼がどんな事を考えて、どんな表情で空を見ているのかわからない。
「……副長。俺、ちょっと用事思い出したんで先に帰っててもらえますか?」
「…別にいいが、早く済ませてこいよ」
「はい」
土方の了承を得るや否や、海斗は素早くその身を翻し、何か急ぐ様に彼の側から離れて行く。
向かう先はどこなのか土方にはわからない、だが……。
(……?)
土方は江戸を守る真選組の副長であるが故に、当然江戸の地理にも詳しい。
海斗の向かった先、三番街の道を真っ直ぐ進んだ先は港付近にある倉庫街。
あんな何もない所に何の用があると言うのだろうか。
好奇心に駆られた土方は、咥えた煙草に火を付けて海斗と同じ様に身を翻す。
そして、その場から姿を消した海斗の気配を辿って歩を進めたのだった。
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