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その刹那、海斗は一瞬の内に囲みの中からその姿を消していた。
一体何処へと、空人達が何処に消えたと首を巡らせようとしたその時である。
フォーカスの部下達は、まさに一瞬で次々と身体の至る所から血飛沫を上げて地に倒れ伏せたのだ。
上った叫びは一つもなく、フォーカスと刀を鞘にしまう"銀髪の男"以外の者は完全に地へと魂を落とされピクリとも反応を示さない。
彼らが身に纏うねずみ色のコートがただ、虚しさを漂わせながら風に煽られ薄暗くなりはじめた空に一つ、飛されていく。
「確かに俺は、"黒虎の海斗"だ。だが、俺にはもう一つ名前がある」
部下を全て失い、呆然と立ち尽くすフォーカスに一歩ずつ近付いていく、短い銀の髪を揺らす一人の男。
紅い宝石のような光を放つ瞳はギラリと細められ、血に飢えているような、何かに悦んでいるような光を称える。
銀髪の男──真選組副長補佐、今岡海斗はこう続けた。
「──"銀色の閃光"という名がな」
顔色一つ変えず、彼を少しずつ追い詰めていくかのように海斗はゆっくりとした足取りでフォーカスに迫った。
彼が一歩距離を詰める度に、フォーカスもまた一歩距離を取るように足を下げていく。
上司から聞いた、関わってはならない超危険人物が、小物である自分と相対していることが、信じようと言う気になれない。
「き、貴様が、あの、ぎ…"銀色の閃光"だと!!?」
フォーカスの身体が恐怖の余りに震え出す。
彼自身、この男に勝てる訳がないのだと分かってしまった。
彼に纏わる不敗神話が、その驚愕と恐怖を確固たるものにする。
「お前は幸運だよ。"これ"を見れる奴は滅多にいない」
「がっ……!!」
瞬時にフォーカスの背後へと回った海斗は、隙だらけのその背に手刀を繰り出した。
振り下ろされると同時にかかる圧力に短い呻き声を吐き出して、フォーカスは何かに抑え込まれるように地面に倒れ伏した。
白目を剥いて意識を飛ばした彼を、どこからともなく取り出した縄で縛り付け、一段落したところで大きく息を吐く。
すると、銀色のそれはゆるりと元の黒い色と取り戻し始めた。
その間に手ごろなコンテナに死体とフォーカスを放りこめば、その場は再び静寂に包まれる。
そこに佇むのは、いつもの海斗独りだった。
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