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以前はスクーターで20分くらいのマンションに住んでいたので、電車に乗ることはほとんど無かったが、今はスクーターで通おうと思うと50分以上はかかるだろう。 私は今日も、自動的に開いた3両目の一番前の扉から、人の流れに逆らうことなく溜息交じりに車両の中へと流れ込んでいった。 ごとごとと揺れる車内、高校生のイヤホンだろうか微かにハイテンポなメロディがどこからか聞こえるが、身動きが取れるような状況ではなく、なんとか確保した足場にじっと立って、時折車体の傾きとともに隣の人に寄りかかりながら、早く時が過ぎるのを、私はただ待っていた。 それでも今日は運が良いといえるだろう。目の前に横向きに立つ35歳くらいの男性は、昨日目の前にいた脂ぎった男性用香水のきついオヤジとは違い、微かにタバコの匂いがするものの、鼻につくような香水を使っておらず、とても快適と言えたからだ。 がたんと車両が傾き、少し立ち位置がずれる。すると、目の前の男性の肩がわたしの鼻先にきてぶつかりそうになる。 「すんません」男性が小さな声で言って、肩を不自然な方へと開いてくれたおかげで、わたしは楽な姿勢で立ち続ける事が出来た。 私は男性にペコリと小さくお辞儀をして、何気なく男性の手元を見ると、何やら携帯電話を開いていた。 別に見ようと思ったわけではないが、動けない状況で目の前で携帯電話していれば、イヤでも目に入ってしまう。
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