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「はやくぅママ、先行くよ!」
「ごめんサオリ、ママもう少しかかるから先に行って」
「しょがないなぁ、じゃあママ頑張ってね!」
「いってらっしゃい」
今朝は珍しく娘の方が私より早く用意を済ました。私はというと、なかなか化粧が決まらず、気がつくと電車の時間が迫ってきている。
仕方なく駅まで小走りで走り込み、ぎりぎりいつもの3両目へと飛び込んだのだった。
どういうわけか、今日も目の前には昨日と同じ彼が向かい合わせの状態で居た。
別に意識しているわけではないし、彼も私を意識しているわけではないだろうが、意味もなく気になってしまう。
彼は今日も携帯を操作しながら、画面をじっと見ている。たぶん、いや絶対に目の前に居る私が、昨日隣に立っていた女だとは、やっぱり気付いてはいないようだ。
がたんと車両が揺れ、混みあった車内で私は一歩彼の方へと押しやられた。
彼は目の前にかざしていた携帯を、邪魔にならないようにと横向きにしてスペースを作ると、自然と私はその空いたスペースへと流れていった。
彼の胸元、今日は朝から走ってきたし、わたし汗臭くないかななんて、おかしな事を気にしながら、なんとなく恥ずかしくなった。
ふと見ると、彼の携帯の画面が見える。まるで「見てごらん」と言われているかのように、わたしに見えやすい角度で彼は携帯を操作していた。
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