5人が本棚に入れています
本棚に追加
「私、……来て良かった」
地面に座り込み、奴の方を見る。
奴も地面に座り込み、手で熱そうに砂をいじっていた。
「僕のおかげでっ……すっね……」
言葉の途中からまた咳き込み始める。
その音で急がねばならないことに気がついた。ここは、あたし達にとっては死の世界でしかないから。
しかも、今度の咳は相当ひどいらしく、いつまでもやむことがない。
「だ、大丈夫? もう早く行かないと」
私には何も出来ない。ただ咳がやむのを待つしかなかった。
そして、奴の身体は突然糸が切れたように倒れた。
倒れたまま、ぴくりとも動かなかった。
ひどく激しい感情が全身を突き通す。気がついたら、私は奴の隣に座り込んでいた。
私はこんな感情など知らない、もう既に忘れてしまったもの。
ただ静かに涙が流れる。
最初のコメントを投稿しよう!