5人が本棚に入れています
本棚に追加
奴は、生きている。
奴の心臓は弱々しくとも、確かに脈うっていた。
でも、動かすことは出来ない。ここまで来たはしごは、一人が気を失っている状態で降りれるほど短くはないのだ。
この汚染物質の舞う地上で、目覚めるのを待つ他に道はなかった。
手を握ってると、暖かいことがわかる。でも、握り返されることは、なかった。
祈ることしか出来ないのが、悔しい。
どう足掻こうとも、私にこいつを直すすべはないのだ。
今、目を覚ましたところで、すぐに死んでしまうことは分かっている。でも、祈らずにはいられなかった。一分一秒でも一緒に生きて欲しい、と。
「そこにいるんですか……? イヴさん」
声が聞こえた。
固く瞑っていた目を開けると、奴が目を開いていた。
でも、その目に私が憧れた光は宿っていなかった。
「……目をやられたのか」
震え出しそうになる身体を必死で、押し止める。
「そう、みたいですね。あの赤さが目に焼きついている……。でも、それでも、良かった……」
やはり、奴はどこか幸せそうに微笑んだ。
「この世界は滅びる。百年もたたないうちに。だから、一緒に生きよう? 滅びるときまで。わ、私なら」
「『あなたを不老不死にすることができる』でしょ?」
奴が、私の言おうとしたことを言った。
なぜ知っているのだろう。そんな疑問を顔に出している私を見て、奴は少年みたいな笑みを浮かべる。
「僕のおじいちゃんにも同じこと言ったでしょう?」
最初のコメントを投稿しよう!