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鉄の棒が先ほどより熱くなって来た。地上はもうすぐなのだろう。
あの時は、絶望とともに降りて行ったはしご。私は、今それを登っているのだ。先に待ちうけているものは何なのだろう。やはり、絶望でしかない気がする。
「奇跡ってあると思います? イヴさん」
唐突な言葉は、先ほどに対する答えとは思えなかった。
私は、
「……そんな言葉、嫌いだ」
この身こそが奇跡なのかもしれない。だからこそ、嫌いだった。
「おや、奇遇ですね。僕もです」
そう言いながら、もう一段はしごを登る。一段の分だけ地上に近づいた。
「人の努力を奇跡なんて一言で片付けて欲しくないんですよ。奇跡は軌跡であるべきなんです。誰かの努力の結構、そうなったんです。命が生まれたのも、人間が生まれたのも奇跡じゃない。しかるべき結果なんです。あえて言うならば神ですかね。神様が頑張った結果なんですよ」
奴が咳をして、言葉は途切れた。
私は、曖昧に頷いてみせるしかなかった。
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