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奴は呟いた途端に咳き込んだ。
私はいつの間にか、頬に濡れるものを感じた。泣いたのは何百年ぶりだろう。
目の前には、死んでいる世界しかなかった。それでも、世界は美しく、広がっていた。
そのとき、目の前の奴があたしの袖を引き、小声で見てと言った。 それに反応して、奴の視線の先を辿る。
そこには、不自然に盛り上がった小さな砂山があった。それが突然動きだし、“トカゲみたいなもの”が顔を出した。
それは、確かに動き、小さな命を身体に宿していた。
肌は乾いていており、この世界に慣れしたしんでいるように見えた。やがて、痩せた小さな身体は再び砂の中に潜りこんで行った。
二人で静かに見守ったあとに、自然と目が合わさった。
「動いてた」
「はい、動いてました」
どちらからともなく小さな笑い声が聞こえてきた。
「生きてました」
「うん、生きてる」
いつの間にか小さな笑い声は大きくなり、私は泣きながら笑っていた。生き物がいる、生きていると繰り返し唱えながら。
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