響声

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「次のライブ、見に来てよね」    天井に話し掛ける私。誰かに見られていたらそう思われるんだろうな。   でもここにいるのは私だけ。   「あなたのような素敵なお嬢さんにお誘い頂けて光栄の極み……なんだけど、どうしても外せないお仕事があってさぁ」    天井がそう返答してくる。ガンガンとうるさい音も聞こえてくるのは、きっと釘を打っている音だろう。   「残念……だなぁ」    ステージの縁に座って空気を蹴る。誰も見ていないから当然誰も気付いてくれなくて、私は何度も何度も何もない空間を蹴っていた。    私は不機嫌だよ?    でも、一番気付いて欲しい人は天井裏。   「ねぇ、仕事って何?」   「あ~それは言えないぜ。ん~男には……秘密があったほ…う…が………、できたっ!」    どうやら天井の修復が終わったみたいだ。    まだパラパラと埃や木の屑が落ちてくるが、帽子のおかげで……あ、     「帽子!!」      ずっとかぶっていたら、いつの間にかかぶっているのを忘れていた。    驚きのあまり叫んでしまった私に、天井は飄々と返事を返す。   「ああそれな、やるわ」   「え?」    一瞬、笑みを浮かべそうになる顔を必至に抑える。    それでも口元だけニヤケてしまっている私は、しかし感情とは裏腹の言葉を発する。   「別に……いらないし……」   「おいおいそりゃないぜ。……あ、俺の代わりに聴かせてやってくれよ。お嬢さんの歌をさ」    顔は見えないけどロウは、あの腹が立つ顔で笑っているんだろう。   「そんなの……」    ホント、腹の立つ顔だ。   「そんなの意味ないよ!」    ステージを飛び降りて上を見上げる。    やっぱり少しだけ足が痺れたが、そんなことはどうでもいい。   「私が聴いて欲しいのは帽子なんかじゃない! 私が聴いて欲しいのは……っ!!」    天井に向かって私は、自分でも驚くくらいの声で叫んでいた。    ライブハウスに響き渡る私の声。反響が反響。しかし声はしだいに小さくなり、消えていく。    異変に気付いたのは、音が完全に消えたころ。   「……ロウ?」    消えたのは、反響だけじゃ……   「ねぇロウ? ……ロウ? ロウ!!」    もう返事が返って来ないことはなんとなくわかっていた。だけど私はしばらくの間ロウの名前を呼んでいた。    ホント、腹の立つヤツだ。とそう心の中で笑いながら。
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