惨状

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 誰もいなくなったステージの縁、そこに腰掛ける私。    世界が終わったみたいな静寂の中で私は、一人まだ何かを叫んでいる。    声に出して叫んでいるわけじゃあない。自分の不甲斐なさに悲憤する心が叫んでるんだ。    私がしたいのはこんなことじゃない。    信じるヤツしか救わない神を罵倒する言葉は、本当は自分に向けた言葉。    それがわかっていながらなお、それを歌い続ける。    愚かな私。    そんな現実に首を振り、逃げるようにステージから飛び降りる。    そんなに高くないステージだったけれど、少しだけ足が痺れた。    こんなもんじゃないんだ……    私がしたいのは、こんな……    何もできない自分が悔しくて、うつむいたまま奥歯を噛んだ。      その時だ。      上の方から木が軋むような音が聞こえてきた。    それに反応して見上げた私の顔は、まるで静止画であるかのように硬直した。      崩れる天井。      奇声と一緒に落ちてくる男。      とっさに目を瞑ってしまう私。      その私の耳に飛び込んでくる、この世のものとは思えない轟音。      耳を塞いでしゃがみこむのが唯一の抵抗。    金属音が、木の破砕音が響き渡る。    私は目が回るような感覚を覚え、恐怖に身を縮ませる。    やがて……パラ、パラ、と小さな音が聞こえ始め、あの怖い音がやんだ事を知らせてくれた。    私は呼吸を調え、恐る恐る目を開く。    とそこには、でんぐり返しの途中みたいな格好のまま動かない男がいた。      ……いや、さすがにその格好はないだろう。      男の周りには木片や鉄板などが散乱しており、まさに惨状と言うべき状態だった。    通常なら腰が抜けてしまっていたのだろうが、男のその独特の格好によって私の恐怖は半減したようだ。    そんな中、動かないのは男だけではない。私の体もまた、硬直したまま止まっていた。    腰が抜けるほどではないけれど、ものすごく驚いたのは確かなのだから。    その私の頭に、埃と一緒にヒラヒラと帽子が落ちてくる。丁度よくその帽子が頭に乗り、私の視界が遮られた。    それでも動く事ができない私は、これからどうしようか必死に考えている。     「あ~ そうかなるほど」
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