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「欲しいのはラジコンやけど、ジイちゃんの話をしてるんや」
事務所の電話が鳴り父は素早く右手で受話器を取ると、左手で私に「あっちに行け」と合図した
小さな事務所と居間は引き戸で隔たれていて、私は下を見ながら引き戸をひいた
居間では母が退屈そうにイヤホンでラジオを聴きながら、着物の帯をクルクルと巻き取りキズや痛みがないかチェックしていて、静かな居間にザザッ、ザザッと着物の帯と畳が擦れる音が聞こえた
「なあ母ちゃん」
「なんや?母ちゃんは忙しいんや、外でジイちゃんに遊んでもらい」
「ジイちゃん、鴨を撃ちにいった」
母は私を見ずに着物の帯から目を離す事はなく、そして突然笑いだした
「母ちゃん、どないしたんや?」
「ラジオで面白い漫才してるねんやわ
ところでマー君、さっき何の話をしてたんや?」
「もうええ」
「ええんか
あっそうか、今日はまだやったな」
母は着物の帯を畳に置き、財布から百円を出すと私に渡した
「はい、今日の小遣い」
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