猫とチェリーパイ

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 それを見たドードーが、三月ウサギが、キャタピラが、次々に紙袋を持ち上げた。どれも淡いグリーンに薄ピンクの縦線が入った、紛れも無いドジスンの紙袋だ。   「あたしも買って来ちゃったんだけど…」   「俺も。眠りネズミと二人で、2つ」   「引越し祝いにいいかと思って…」   (…同じケーキが7つ)   「学校の近くで美味しいモノって言ったら、ドジスンのチェリーパイ以外に思い付かないものねぇ」    クイーンが溜め息を吐いて、さらに紙袋を取り出した。   「ってことで、あたしもみんなで食べようと思って、買って来ちゃった…しかも3つ」   「買いに行かせた、が正しいですよ、女王様。買いに行ったのは僕です」    白ウサギが付け足した。どっちにしろ、これでチェリーパイは10個。多い。明らかに多い。   「何をやっているんだ、うちの部員は」    帽子屋が呆れたようにつぶやく。彼はもう一人で私物の箱を開けて、自分の場所に広げていた。ティーセットを並べながら、全員を見回す。   「どうせチェリーパイは日持ちしないんだろう。食べるしかないじゃないか。紅茶を入れてやるから、引越し祝いにするとしよう」    全員が顔を見合わせ、やがて情けないような笑顔に変わる。   「まさか、こんなに同じものばっかり買って来るなんてね」   「俺、クッキング部から皿とフォーク借りて来る」   「僕も行く。一人じゃ大変だろ」   「あたし、ここ片付けて食べられるようにしとくわ」  全員が動き出して、あたしも部屋の片付けに加わる。帽子屋のティーテーブルには、とても部員全員は座れないので、段ボールをテーブル代わりにして、そこにチェリーパイを並べる。   「割るなよ」    帽子屋に念を押されつつティーカップを並べると、簡易ながらにそれなりのお茶会の準備が出来た。  三月ウサギと眠りネズミが借りて来たお皿にパイを切り分ける頃、部長の王様から一言。   「えーと、みんな引越しお疲れ様。新しい部室に移って、新しい気持ちでスタート…」   「何か喋ってる人がいるけど、お疲れ様!乾杯っ」    予測通りというか、結局は女王様の一声でパーティーが始まった。
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