猫とチェリーパイ

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 慣れて来て、箱を運ぶテンポが良くなって来る。  トップバッターの三月ウサギの声が聞こえる。 「おい、寝るな!寝ながら運んでると落とすぞ」    いくら眠りネズミでも寝ながら運んだりはしないと思うのだが、一階はずっとこんな調子でにぎやかだ。   「えーっ、また僕に運ばせるんですかっ?たまには自分で運んで下さいよ」    二階も相変わらずにぎやか。白ウサギは大変そうだ。   (口では怒っているように聞こえるけど、なんだかんだ仲良くやってるのよね。ってことは、これも…)   「アリス、ぼんやりしてないで、早く受け取ってくれよ。次どんどん来るんだから」    チェシャ猫が急かす。箱を受け取りながら思う。口が悪くなるのは、もしかしたら慣れて来ているからかも知れない。   「あと三箱だってさ」    重い箱から運び出したので、あとはもう軽いものばかりだ。もっと時間が掛かると思っていたのに、かなり早く終わりそうだ。それはチェシャ猫が使わなさそうなモノをかなり処分した所が大きい。   「はい、ラスト」    部員達がぞろぞろと三階の新しい部室に上がって来る。あたしは最後の箱を部屋に運び入れた。引越しはこれで完了だ。さすが、部員全員でやると早い。  あたしは鞄と一緒に置いていたケーキ屋ドジスンの紙袋の中からチェリーパイの箱を取り出した。すぐそばにいたチェシャ猫に笑いかける。   「あのね、門番から聞いたんだけど、チェシャ猫はチェリーパイが好きだって。それで…」    それを聞いていた門番が、何やら口を挟む。   「あ、アリス、そのことなんだが…」    何か言おうとしているが、今はそれに構っていられない。チャンスは今しかないのだ。   「チェリーパイ買って来たの、みんなで食べよっ」    あたしはついに声を大にして言ってのけた。反応が気になって、ちらっとチェシャ猫を見る。彼は驚いたように目を丸くして   「なんだ、オレも買って来ちゃったよ」   と、ドジスンの紙袋を持ち上げた。   (うっわ、かぶった!最低だよ~)    しかもすぐ隣で門番もドジスンの紙袋を取り出す。   「アリスが買いそびれるんじゃないかと思って…」   (三つも同じケーキが…どうするのっ?)
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